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突然一人で夜の海に放り出されたみたいな~村上春樹~
村上 春樹
コメント:悔しいけど思ったより面白かったんだよね。

アカは話を続けた。
「はっきり言えば、おれは女性に対して、うまく欲望を持つことが出来ない。全く持てないわけじゃないが、それよりは男との方がうまくいく」
部屋に深い静寂が降りた。そこでは物音ひとつ聞こえなかった。もともとが静かな部屋なのだ。
「そういうのは特に珍しいことじゃないだろう」とつくるは沈黙を埋めるように言った。
「ああ、とくに珍しいことじゃないかもしれない。おまえの言うとおりだよ。しかし、そう言う事実を人生のある時点できっちり突きつけられるっていうのは、本人にとってはかなりきついことなんだ。とてもきつい。一般論じゃすまない。どういえばいいんだろう。まるで航行している船の甲板から、突然一人で夜の海に放り出されたみたいな気分だ。
(色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 205ページ)

 言わずと知れた村上春樹の新作を今頃読んだら、おっ!と思うような対話があったので紹介しておく。
 あらすじはあちこちで語られているので、多少ご存知の方も多いだろう。高校時代の親友グループからある日突然理由もきけないまま絶縁された多崎つくるは30代後半になって彼女の勧めで元親友たちに会いにでかける。アカ(赤松)は優秀な成績で名古屋大を卒業した後、銀行とノンバンクに勤め、その後独立して自己啓発セミナーの多少怪しげなベンチャーを経営している。
 「特に珍しくもない」はずのことを人生のある時期に突きつけられた経験をしたLGBTには少なからず共感できるくだりではないだろうか。親にも兄弟にも友達にも言えないこと。いまはネットがあるとはいえ、それでも、すべてカミングアウトしている人のほうが少数派だろう。いまは飲み屋でも何でも開けっぴろげですけど、上京して2丁目で会った人と話して、もやもやが晴れたような、その夜の海の向こうにやはり小さな船影を見つけたような気持を持った人は多いような気がする。そんな懐かしい苦しい気持ちをふと思い出してしまった。

 本作には、あくまでも夢のような語りで、やはりノンケ偽装のホモ?がつくるくんを咥えるシーンが出てきます。これはこれで懐かしい、と言う人もいるんじゃないかな?たぶん。
 上の後に続く文章が以下になります。ご興味ある方はご一読ください。
 つくるは灰田のことを思い出した。灰田の口が夢の中でーそれはおそらく夢なのだろうー自分の射精を受け止めたことを。
そのときつくるはずいぶん混乱したものだ。ひとりで突然夜の海に放り出される。たしかにそれは的を射た表現だ。
「何はともあれ、できるだけ自分に正直になるしかないだろう」とつくるは言葉を選んで言った。
「正直になり、少しでも自由になるしかない。悪いけど、僕にはそれくらいのことしか言えない」

 
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コメント
今回、村上春樹の新作を紹介されていますが、マチダさんの書かれた内容とは全く違いますが一言。

私自身、日常文学作品をあれこれ好んで読む習慣がなく、ましてや村上作品は全く読んでいません。<但し、「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社)のみ読みました>理由は、単純にクラシック音楽が大好きだからです。村上小説にクラシック作品が登場するのは聞いています。例えば1Q84にヤナーチェクのシンフォニエッタや今度の新作にはリストの巡礼の年が出ているそうで、そのためか普段は一般に話題にもならないこれらの曲のCDなどが急に売れたとかニュースになっていました。

村上特需の影響で、出版社や書店だけでなくレコード会社までが潤うことはまことに結構ですが、私がよくいくオーケストラの定期演奏会が爺婆の巣窟(特にN響)みたいなところで、これを機に若者が足を運んでくれたらなあと思うのですが・・・。

要は乱暴な論ですが、これらの現象を通じて感じることは、話題性のあるものにはとびつくけれど、別にそれ以上深まりも発展もしない、上辺だけの現象って何かいやなのです。村上作品の熱烈な読者はいいのですが、一種の時流にのっかった、訳のわからない連中も多数いるのだろうなと。早い話が今話題の英国のロイヤルベビー誕生に日本の一般人が身内のおめでたのような喜びを見ると、この種の話題にのっかるおめでたさを感じます。(決してマチダさんを批判しての文ではないので誤解のないように願います。(笑い))

それから、私のような村上初心者におすすめの作品をひとつ教えてください。
| kris命 | 2013/07/25 1:21 AM |
どうもです。
>これを機に若者が足を運んでくれたらなあ
むしろチケットが高騰してメリットはないのでは?クラシックじゃ指定席なので隣席にドキドキする余地はない気がします。
 私なら、隣席は化粧の薄い品のいい老婦人くらいがよいと思います。なまじイケメンだと気が散りそう。
 隣席にいい男がきてくれないかなと思うのはゲイ映画くらいでしょうか。でも、発展映画館以外で発展した記憶はほぼないですね。

 村上春樹自体はそこそこですが、そんな話題でもクラシックに金が流れるのは善いことではないかと思います。でも、のだめカンタービレ以来多少クラシックファンの若手も増えたと聞きますが。

 ロイヤルウエディングは、ほんとよその子の話、と思ってますので特に何の感興もございません。皇室と同じで内心は反発のほうが多い。英国王室の誰かがゲイをカミングアウトしてくれればいいのになあと思うことはあります。

 あと、天皇制に反発はありますが、今上天皇はいいおじいさんだなあと思います。最近も政治のあれこれをたぶん憂いながら、被災地を回ってらっしゃるのを見ると、私ごときでもつい敬語を使ってしまいます。あれを見習わない自民党、並びに馬鹿政治家どもこそ不敬罪にあたると思ったりします。
| machida_syuji(管理人) | 2013/07/25 1:56 AM |
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